ねこやまローカボ日誌

美味しいご飯を気にせず食べたい、食べさせたい。だから厳選ローカボレシピを紹介させて。

中学受験ブログ⑮ 思考力が養われた時の生徒の行動と、その未知なる可能性

同じことを繰り返させる方法っていいよねf:id:nekoyamachan:20170603112145j:plain

 

教え子に、全力で解く力を与える。

 

将来必ず必要になる、自分で考える力。

その数値化できない能力は、子供の頃に鍛え上げたい。

 

自分の能力を超える、難問に出会った時。

人は何をもって、その問題に対抗するだろう。

 

『知らない』という判断だけで、問題解決を諦めない。

そんな力は、必ず多くの仲間を作り出す。

 

 

クラス分けテストの過去問を解いた、コウスケ。

自分の学習レベルを超える問題に、彼は全力で立ち向かう。

 

これは一人の受験生と体験した、受験のお話。

お時間のある際にでも、お読みいただければ幸いだ。

 

~ 過去のバックナンバー ~

 

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問題を凝視するコウスケ

問題を凝視するコウスケ

 

授業終了まで、残り20分。

 

その限られた時間の中で、私はクラス分けテストの過去問を与えた。

まだコウスケが解くレベルではないと、理解しながら。

 

恐らく問題を見て、彼はすぐに言うだろう。

『先生出来ました』と。

 

白紙のテストを回収し、大きく0点の文字を書く。

最初の授業の時と同じく、テストはすぐ終わると思っていた。

 

 

しかし。

 

コウスケは私の想像せぬ、いつもは見せぬ表情をしていた。

テストの問題を一瞥し、その全体像をザッと眺めつづけている。

 

一番上の簡単な問題から、テスト後半の難しい問題まで。

何か糸口は無いのかと、一つ一つを凝視する。

 

その表情は、まさに税務署

個人事業主のあらを探す、恐ろしいあの表情にそっくりだった。

 

 

だだ、申し訳ない。

コウスケ、キミには解けないと思う。

 

何故ならその問題は、一度も教えたことがない。

問題文を何度読んでも、何算をするべきか分からないだろう。

 

しかしコウスケは、依然として凝視する。

自分の知っている文字や文章を、鉛筆でグリグリ探していく。

 

 

『出来なくてもいいから。

 いやむしろ、出来たらすごいから』

 

テスト開始時に告げた、このセリフ。

もしかしたらこの一言が、彼の何かを動かしたのかもしれない。

 

そして凝視すること、約5分

いつもならテストを諦め、一人じゃんけんに興じる時間である。

 

コウスケの視線が、一つの問題に停止した。

その瞬間、彼の頭上に「発見!」の二文字が見えた気がした。

 

その問題を発見するや否や、彼は鉛筆を握りしめた。

決して解けるはずもない問題に、彼は全力で立ち向かい始めた。

 

 

その問題は、俗にいう中級問題

問題文は短いが、その解答方法は彼は知らない。

 

しかしその問題は、どこか見慣れた問題だった。

それは彼が解き慣れた、初級編の旅人算の応用だった。

 

 

仲の悪いと思われる、二人の兄弟。

問題文に登場するこの二人は、時間差で図書館に出発する。

 

その状況は、過去に何度も初級編で扱ったもの。

一緒に行けばいいのにねと、コウスケが言ったのを覚えている。

 

 

しかし初級編とは違う、兄弟のトリッキーなアクション。

買い食いはするわ、遊びには行くわ、その行動はまさにやんちゃ

 

最終的には兄が忘れたお弁当を渡すために、妹までかり出される始末。

この兄弟に、計画性という言葉はないのだろうか。

 

 

この何とも修羅場な状況の、この問題。

コウスケは残り15分を捧げるつもりなのだ。

 

タダではやられねぇ。

そんなリゾット・ネエロの様なセリフが、ふと聞こえた気がした。

 

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図に描き、差を出し、解答する

図に描き、差を出し、解答する

 

おもむろにテストを折るコウスケ。

 

一体何をしているのだろう?

私は一瞬、彼が問題を諦めたのだと思った。

 

そのまま小さく折りたたみ、そしてカバンに詰める。

あまりに難しい問題を目の当たりにし、彼は逃亡するつもりなのか。

 

 

しかしそうではなかった。

 

彼は問題用紙を斜めに折り、裏の白面を表に出した。

そしてその白いスペースを、計算用紙として使い始めた。

 

結構、頭いい。

私は不覚にも、そう思ってしまった。

 

 

そしてその白地に、コウスケは図を書き始めた。

誰がどう見ても、ミドリムシにしか見えないユニークな絵だった。

 

白地に映える、三匹のミドリムシ

その先に見える段ボールの様なものは、恐らく図書館だろう。

 

そしてそのミドリムシが、各自好きなように移動する。

少しづつ差を広げながら、最初のミドリムシが先行する。

 

途中で道を外れる、第二のミドリムシ。

お弁当らしきものを持つミドリムシは、なかなか俊足だ。

 

図書館にタッチして、帰ってくるミドリムシ。

ミドリムシのそばをすれ違う、大きめのミドリムシ。

 

 

見ているだけで、私は吹き出しそうになってしまった。

しかしこれぞ、彼が思考する瞬間だった。

 

コウスケは自分の知る旅人算を、できるだけ使おうとしている。

兄弟が時間差というフレーズに、旅人算を感じ取ったのだ。

 

そしていつものように、その差を図で確認する。

もちろん受験本番は、そんな時間はないのだが。

 

ただ、一つの問題に15分かけられるなら話は違う。

いくら問題が複雑になっても、その使い方は同じなのだから。

 

何度も移動する、3匹のミドリムシ。

他の先生たちから見れば、ただの落書きタイムである。

 

 

しかし私は、最高に嬉しかった。

コウスケが自力で解こうとする、その健気な姿に。

 

私は人生で初めて、図面のミドリムシを応援した。

彼らが無事に会えますようにと、祈りを込めながら。

 

~ 次回16回に続く ~