中国旅行記2 語彙力0の町中探索と初の快適新幹線
10月13日。
中国旅行も早くも2日目、既に少し寂しくなる。残り13日だと考えると、がむしゃらに遊ぶ意欲が溢れてくる。
初めての異国の地、北京で一晩の宿を取る。そしてまだ見ぬ世界遺産 平遥古城へ向かう、2日目。
快晴の天候に恵まれ、北京の街に一人繰り出す。その目的は、相方にあの回復剤を届けるため。
これは遅めの夏休みを使った、2週間の中国旅行記。皆様に少しでもお楽しみいただければ、最高に幸せです!
語彙力ゼロの北京初めてのお使い
朝7時。
まだ眠気も感じるが、ワクワク感が眠気を押し返す。いつもより遥かに心地良く目覚め、布団を一気にはねのける。
すると扉の外から、大きな話し声が聞こえる。室内テレビと聞き間違える臨場感に、扉を閉め忘れたかと思ってしまう。
しかしそれは部屋に隣接する、広場からの声。僅か15cmの扉の向こうでは、人々が食事をしている気配がする。
笑い声の意味は分からないが、美味しそうな香りは世界共通。炒め物の香りと共に、お茶碗と箸がぶつかる音が響いてくる。
さらに部屋まで入り込む異国の言語に、ここが中国であると再確認する。そして同時に、自分がバックパッカー中であることを強く実感する。
そういえば、昨日は特に何もしていない。使った中国語もピージョ(ビール)くらい、食べたものは煎餅、何だかすごく物足りない。
でも、まてよ。何か大切な事を、忘れている気がする。
……そうだ!
相方もちこの深刻な胃腸破壊だ。
いつもならBIGBANの音楽と共に飛び起きる、もちこの気配を感じない。彼女は果たして、この7時間で復活したのだろうか。
答えは、瞭然。そこにはゴマちゃんのように横たわる、ユニクロに包まれたもちこがいる。
これはあかん…。
不慣れな関西弁を使う余裕はあるものの、エネルギー切れは一目瞭然。しかし熱や腹痛などは一切なく、ただ胃腸だけが機能していないご様子だ。
そうだ、同じ症状に苦しんだもちこの旅の相方も、約3日間消化機能を失ったのだ。そのためもちこもまた、その回復期真っ只ではないだろうか。
食べ物は一切消化されず、水分もダイレクトに排出されている。ただそれでも、何か水分を補給した方が良いはずだ。
しかし指示を仰ぐ医師も存在せず、尚且つここはかなりの田舎地域。外からは牛の鳴き声も聞こえ、近隣の病院も期待できるとは限らない。
そもそもあと数時間で、私たちは新幹線に乗らなければならない。もちろん最悪の場合は救急車を呼ぶが、もちこ自身も断固拒否している。
しかし凄くキツそうなのも、事実。私はもちこに、何か必要なものがあるか尋ねてみた。
ねこやま…。アレ買ってきて…。
アレ…アレとは何だろう。体調が悪い日に、無性に食べたいもの。チキンラーメンかな。
いや今のもちこは、一切食事を受け付けない。飲み会の〆で活躍する、チキンラーメンなわけがない。それ食べたいの、私だ。
一体なんだろう。もちこは、何を求めているのだろう。
( ゚Д゚) ハッ!
そうか、脱水症状・胃腸風邪・消化不良と来たならば…。答えはみんな大好きポカリスエットに違いない。
そう問い返すと、彼女は大きく頷く。そうそうそう!という感じに布団が揺れ、もちこは布団に再度もぐりこむ。
なるほど、なるほど。なんとも冷静な判断だ。
北野武さんが宣伝されていたように、あの飲み物なら世界中にあるはず。インドで売られているCMも拝見したし、この北京にもきっとある。
よし、任せておけ。中国語が話せない以上、私は行動力で貢献しよう。
見事ポカリスエットを発見し、ここに持ち帰ろう。そして壊れた胃腸を、世界で一番体に近い水で癒してみせよう。
私は机に散らばるお札を握りしめ、ドミトリーの外に飛び出す。いざ初めてのおつかいin北京☆成人編のはじまりである。
語彙力皆無で挑む初めてのお使い
外は心地良いほどの、見事な快晴。軽い空腹感を感じながら、久しぶりの土の路を踏みしめる。
良き昭和時代にタイムスリップしたような、不思議な懐かしさ。ただ、道行く人々と服装が違う私は、結構な浮きっぷりだ。
道路でめんこに興じる子供達、壊れかけのスクーター軍団。さらにまるで挨拶のように、バイクのパッシングが四方から飛び交う。
恐らく道が狭いため、頻繁に鳴らしたほうが安全なのだ。それほど多くの小道が交錯し、あらゆる方向から子供が突進してくる。
ポカリスエット散策も忘れ、見慣れぬ光景に没頭する。見るものすべてが新しく、まるで修学旅行の自由時間みたいだ。
さらに疑問に感じるほどの、無数の公衆トイレ。大げさではなく、50mに1個くらいの驚異の頻度だ。
それほどこちらの人々は、トイレを使う機会が多いのかな。確かにご飯を沢山食べる文化だと聞いたことがある、もしかして政府の政策なのかもしれない。
さらにその公衆トイレには、仕切りは一切なし。個室の概念はなく、完全にシースルー構造。
もし今、神のいたずらで猛烈な便意に襲われたなら。道行く人々に、私の全てを見ていただくことになる。
おお、なんて刺激的なんだろう。これは是非とも、謎の便意に包まれてみたいっ!
…いや、そんな冗談を言っている場合じゃない。
宿泊先では、弱ったゴマフアザラシが私の帰りを待っている。早急にお店を探索し、ポカリスエットを購入しよう。
街のカラフルな建物や洗濯物を眺めながら、お店を散策する。その綺麗な街の色合いに包まれながら、いつまでも散歩していたい。
珍しそうに見てくる住民の方々にも、軽く挨拶をする。すると皆が皆、心地良い笑顔をくれる。
どうやらグッドモーニンは、世界共通らしい。しかしおはようくらいの中国語は、事前に覚えてくるべきだった。
さらに15分ほど散策すると、ふと地元の子供達と目が合う。モフモフの犬を撫でまわす彼らは、地元の駄菓子屋さんの軒先で遊んでいるようだ。
そして彼らが集うお店にふらりと入ると、ついに発見する。謎のお酒からリッツ的なお菓子まで、ここはいわばミニコンビニといったところか。
そしてついに、あのお馴染みの飲み物を発見する。名前こそ違うが、そのビジュアルは間違いなくヤツである。
青色のフォルムに、白濁で透明の液体。これぞ世界で活躍する、あの人気飲料に違いない。
宝石〇力水徳。
もはや漢字で書けない商品名、これぞ求めていたお馴染みドリンク。小学生の時に風邪を引くと、NHK教育放送を見ながら飲ませてもらった、美味しいアレだ。
目の前に積まれた、常温ポカリット。店前の子供達が買う可能性も考慮して、6本中3本をレジに持って行く。
そして常連のお爺ちゃんが桃を買うのをじっと待ち、店員さんに手渡す。そしてミッションを終えた有頂天の私は、一気に現実に引き戻される。
是12元、有没有包?
( ゚Д゚) ?
忘れていた。中国語、ぜんぜん喋れないんだった。
話せないだけではなく、一つも聞き取れない。この飲料の価格が分からない私は、もはや恰好のぼったくり対象じゃないか。
もし1本20元(約340円)と言われても、全然不思議に思わない。それどころかああそうなのかと思ってしまうほど、まだ金銭感覚も未成熟である。
何というカモ。何という葱のしょいっぷりだろう。
ただ昨晩のピージョ(ビール)が6元だったことを考えれば、それ以上とは考えづらい。しかしここは相場も確認できない、田舎の小さなお店である。
もしここで60元を渡して、1元も返ってこなかったらどうしよう。それはつまり、1本20元の超高級ポカリだということになるのか。
そして私はきっと、相方もちこに笑われる。完全にぼったくられてるじゃん!と、威厳と尊厳を失うのだ。
いや…。これは、教訓と反省だ。語学の勉強を怠った事実を、甘んじて受け入れよう。
そんな事を考えながら、私は首をかしげてみた。言葉分かんないんだ的な雰囲気を出し、同時に30元を手渡してみる。
もし1元も返ってこなくても、これはお店のおばちゃんのせいではない。中国語の勉強をしなかった私に対する、神とパンダの鉄槌だ。
しかし私が話せないことを察しても、おばちゃんは尚ひるまない。喋れようが喋れまいが関係ないと言わんばかりに、ビシバシ話しかけてくる。
もう後半は、間違いなくポカリの値段の話ではない。私のマフラーを触りながら、いいねこれ!的にバンバン喋り倒してくる。
挙句の果てには、常連のお爺ちゃんも何やら笑っている。先ほどかった桃をかじりながら、謎の言語を浴びせかけてくるのだ。
(;´・ω・)
こんな顔で戸惑う私に、おばちゃん軍の猛攻は止まらない。さらに子供達もコイツ外国人だぁ!と言わんばかりに、次々にお店に飛び込んでくる。
もはやこれまでか。
そう思った時、おばちゃんは私に大きな紙袋を手渡してくれる。するとそこには、3本のポカリと18元のお釣りが入っていた。
そして同時に、リーベン(日本人)?と訪ねられる。そうだよ!と日本語で答えると、また来てね的に笑顔で手を振ってくれる。
嬉しくなり、追加でビールもレジに運ぶ。500ml6元のビールは、朝の一杯にしてもきっと許される。
子供達とも挨拶を交わし、犬に隠れた真っ白な猫を撫でる。全く人を恐れない、とても毛並の綺麗な猫だ。
しかしすぐに、もちこが猫アレルギーだったことを思い出す。そのため先ほどのトイレに向かい、撫でた手を念入りに洗っておく。
偶然出会う美味しい朝ごはん
そしてその直後、強烈な空腹感に襲われる。それは孤独のグルメを彷彿させる、立ち尽くすレベルの空腹感だ。
よく考えたら日本を出発して16時間、煎餅3枚しか食べていない。胃袋が米一揆を起こすのも、当然だ。
しかし先ほどのお店に戻り、食べ物を買うのはいかがなものか。どれだけ素直にまた来てんだ!と思われるのも、結構恥ずかしい。
これは付近のお店で、ご飯を食べるしかない。さらにもちこは今ご飯が食べられないため、一人で食べるしかないだろう。
そう考え、帰り道でご飯を散策する。まだ中国特有のご飯も食べていないし、丁度良い機会だ。
ただ目に入るご飯屋さんはメニューも全くない、超現地感溢れるお店ばかり。談笑するジモティ―達に紛れて、私は小籠包を頼めるのだろうか。
想像すると、結構なハードル。フランス料理のフルコースをお持ち帰りするくらい、難易度高めだ。
さらに残り18元(約300円)で、果たして足りるのか。もし注文してお金が足りなかったら、走って逃げるしかないのか。
いやそんな罰当たりをするくらいなら、空腹のままでいい。二日目にして犯罪者になり、強制送還されるわけにもいかないんだ。
そんな自問自答をしながら歩いていると、不思議な光景に遭遇する。それは壁に向かって話しかける、一人の女性である。
ん?なぜあの女性は、壁に話かけているんだろう。
もしやこの国では、壁と話せる人は珍しくないのか。今日もカッチカチだね!などと、談話できるのは当たり前なのか。
まぁ冗談はさておき、本当に何をしているんだろ。そして近づくと、理由がはっきりする。そこには驚くほど小さな小窓があり、お店が開かれているのだ。
僅かな隙間に、ずらりと並ぶ謎のメニュー。窓の中では一人の女性が、美味しそうなご飯を黙々と調理している。
先ほどの壁おばちゃんに、咄嗟に話しかけてみる。ハオツ―?(美味しい?)的なことを尋ねれば、きっと何かしら交流できるはず。
しかしいくら尋ねても、おばちゃんはポカンとした表情。なんだこの外人は?という感じに、少し笑っている。
それでも尚、私はこの謎の食べ物が欲しい。と言うよりも、今この方が購入したご飯を、猛烈に食べたい。
小窓からご飯を受け取るとすぐ、壁おばちゃんはモリモリ食べ始める。それは見たことのない、お好み焼きとパスタのハーフの様なお料理だ。
身振り手振りで食べたい意思を伝えると、おばちゃんはメニューを指さしてくれる。さらに私が食べてるのはこれ!と言わんばかりに、謎の料理名を連呼してくれる。
吃〇冷面。
どうやらおばちゃんが購入したご飯は、そんな名前。それはわずか5元(約85円)という格安価格、ジモティ―が好むお菓子感覚の食べ物のようだ。
私も食べたいなぁという顔をすると、おばちゃんは同じ物を注文してくれる。そして吃〇冷面を食べながら、颯爽と真っ黒な愛犬といってしまった。
先ほどのポカリの袋から5元を取り出し、壁の中の店員さんに手渡す。さらに何か沢山質問されたが、とりあえずうんうんと頷く。
腹ペコの胃袋に届く、最高に芳しい香り。はじめての中国ご飯に、もうワクワクも暴発しそうだ。
クレープのように薄く伸ばした玉子に、パスタ的な生地。さらに乱切りの玉葱らしき野菜を、豪快に振りかける。
白と黄色の混じった薄焼きタマゴに、辛そうなトンカツ風ソース。もはや50元でも大人買いしそうな見た目に、フライングで口がモグモグしてしまう。
そして手渡される、屋台のかき氷のような器。さらにパスタのような麺に、タップリ潜む唐辛子。
後で聞いた話では、先ほどの質問はどうやら辛いの入れる?の意味だったらしい。そして激しく頷いた私には、容赦ない唐辛子がサービスされたようだ。
しかしモチモチで美味しい。柔らかな卵にきしめん風のパスタ、さらにピリ辛味噌的な濃い目の味付け。
完全に生の玉葱のアクセントも、ピリ辛で刺激的。これは職場の近くにあれば、月3くらいの微妙な頻度で購入する美味しさだ。
そして量もおやつ的、子供たちにも人気に違いない。さらにお子様でも手が出しやすい、5元の価格も天晴だ。
ただ今は激安と感じるこのお値段も、食事として平均的なのだろうか。もしかしてこの価格ですら、実は高額だったりするのかな。
まぁそれは、これから色々な食事を食べることで分かるだろう。まずは大変美味しい朝ご飯、ご馳走様でした。
壁おばちゃん、喋れぬ私を助けてくれてありがとう。パスタ麺をパクパク食べながら、ドミトリーへと足早に戻った。
ドミトリーに戻ると、もちこが外に出ている。既に出発用意を根性で済ませ、中庭のソファーで休んでいるようだ。
早速買ってきたポカリを渡すと、とても美味しそうに飲み干す。やはり風邪っぴきさんと体調不良には、ポカリが一番かも。
ただその座り方は、ぜんぜん可愛くない。このおっさん風に横たわっているのは、きっと胃腸破壊で苦しいからだ。
そう信じることにして、先ほど購入したビールを開ける。朝からバチが当たりそうだが、ちょっとくらいのバチなら受け止めよう。
懐かしさを感じる、取り外し式のプルタブ。そういえば子供の頃、このプルタブを飛ばして遊んだなぁ。
……。ちょっとまてよ。
もしかしてこれ、昭和から売れていない商品では。
懐かしさを感じるとかではなく、ガチで懐かしい商品の可能性はないのだろうか。失礼ながらあの小さな商店なら、有り得るかも…。
慌てて裏面を眺めると、上部から思いっきりビールがこぼれる。さらに慌てて製造年月日を確認すると、こう書かれている。
製造2017年10月1日。
さすがは速度の国。製造から販売まで、とてもお早い。数十年前の商品が売られていると疑った私を、どうか許して欲しい。
ついでに飲み口を2回拭いた私も、一緒に許していただきたい。先ほどのビールシャワーは、きっと疑心に溢れる私への天罰だ。
そしてビールを飲み干し、受付でチェックアウトを済ませる。さらに受付女性にタクシーを呼んでもらい、本日の出発地点に向かうことに。
さらに待っている間は、先日バックパッカーで盛り上がっていた中庭で待機。するとそこには、昨晩の大喚声の原因が置かれていた。
サッカーゲームだ。
親戚の家にあった、がちゃがちゃするタイプのサッカーゲーム。正式名は分からないが、ガチャサッカーとでも呼ぶのだろうか。
このガチャッカーこそ、深夜中響き渡った金属音の正体だったのか。確かにこんな面白いものがあれば、誰だって没頭するに違いない。
私はこれやろう!ともちこを誘おうと思ったが、ふと思い留まる。もし私が胃腸破壊されていたら、死ぬほどやりたくないもの。
一人でガチャッカーに興じながら、待つこと約15分。屈強な中国人男性が、私たちを呼びに来てくれる。
もちこのリュックも前に抱え、彼の誘導に付いていく。そして約100m離れたところでタクシーを発見し、荷物を積み込む。
その車内でも、もちこのスマホが注目される。そのおもちゃ何だい?と、黄色のスマホケースは大変な人気である。
さらに今度は昨日と違い、優しい雰囲気のおっちゃんだ。中国語上手だねぇ!と褒められた相方も、ニヤニヤご機嫌だ。
天気も良く穏やかな雰囲気に包まれた、タクシーの車内。目的地までの約30分、きっと楽しいに違いない。
もう少し寝てなよと相方に告げ、市内の光景を眺める。車窓には綺麗な街並みが、流れるように繰り返されている。
しかし。
ここでも私は、中国の底力を感じる。いや正しくは昨晩も感じた、彼らの処理速度の凄まじさだ。
早いのだ。それはもう、むちゃくちゃに早いのだ。
日本ならば、確実にオービスに引っかかる。もし窓から手を出せば、私は何カップを体験できるだろう。
先ほど到着まで30分と言っていたのは、この速度で30分なのだろうか。もしくは30分を10分で到着するね!という、運転手さんの企業努力なのか。
ただ不思議にも、なぜか恐怖は感じない。なぜなら周囲の車もまた、同じ速度で走っているから。
自分達だけでなく、全車両が早ければ怖くない。私はこの国で、また一つお利口さんになってしまった。
そして音速運転手は、あっという間に目的地に到着する。にこやかな笑顔とは裏腹に、意外と怒らせると怖いタイプかもしれない。
ただ早い分には、とてもありがたい。私たちは感謝の言葉と18元(約306円)を支払い、運転手さんと別れを告げる。
北京西站。
広大さに圧倒される、歴史ある北京最大級の駅。巨大な赤いモニュメントに迎えられ到着した、本日のスタート地点。
そしてここは、初めて新幹線に乗車する駅。バックパッカーの基本であるバスも使わず、いきなり高額移動手段をぶっこもう。
まずはここから、目的地である世界遺産・平遥古城を目指そう。最高に楽しみにしていた、約3時間半の長距離移動だ。
中国新幹線の発券手続きと注意点
じゃあまずは、チケットを手に入れよう。残念ながら顔パスで新幹線に乗れるほど、世の中甘くない。
まずはネットで事前予約した乗車券を、窓口で発券しなければならない。ちなみに事前に未購入の場合は、近くの新規窓口で購入する。
ただ手続きは非常に簡単、パスポートを提示して料金を支払うだけ。もし事前に料金を支払っているならば、チケットを発券するだけの簡単なお仕事。
ただし受付の大半の方が英語を話せないため、最低限の中国語は必要になる。ここでは取票(ちゅーぴゃお:発券お願いします)と繰り返せば、理解していただける。
しかしここでは、注意も必要。それはやはり、この国が速度の国だから。
まずここには、沢山の人々がいらっしゃる。そのため出来る限りササッ!と手続きすることが、とても重要。
もし10分以上発券に手間取れば、列後方から容赦なくはよせぇ!と急かされる。それほど窓口は混雑しており、交換に対応した受付窓口も多くない。
特に出発ギリギリになると、窓口の列もさらに長くなる。早く発券しなければ乗り遅れる修羅の方々に、大きなお声でせかさられるのだ。
さらにもちこが体験した国慶節(中国最大の連休)では、さらにバトルも頻発する。爆音に近い怒号が、30分以上手続きをする先頭女性に向けられたらしい。
特に外国人は窓口での発券が必須なため、窓口に並ばなければならない。近くの備え付け自動発券機では、発券できないから。
ただ日本人は中国人に似ているため、列の人々は外国人だと気づかない。そのため自動発券機で発券できるなら、列から外れてくれ!と高確率で言わてしまう。
さらにネット購入専用の発券窓口と、新規購入の窓口も分かれている。(その違いは赤い電光掲示板に表示)もし発券速度を求めるなら、インターネット購入専用窓口に並ぶ方法も最高だ。
まとめると、新幹線の発券手続きはタップリ余裕が大切ということ。出来れば駅に到着した日に、次の日の発券も済ませておくと素敵である。
これが窓口で恐怖を感じた、偽バックパッカーからのアドバイス。未知の言語の国での大声は、結構なドキドキ感なのだ。
そして無事チケットを発券し、パスポートをカバンの奥にしまい込む。日本の新幹線乗車券に良く似た、可愛らしい一枚券だ。
ただ今回はもちこの体調不良を考慮して、直前でアップグレードする。二等席から一等席に変更し、優雅な席でのマハラジャタイムだ。
※新幹線チケット(1人分)254.5元(約4.327円)
さらにここで、パスポートを収納する所定の場所も決めておく。ぶっちゃけパスポートとやる気さえ紛失しなければ、根性で帰国できるだろう。
まずは無事に発券を終え、ほっと一安心。ただ、何だか空腹だ。
ポカリをがぶ飲みしているもちこも、少し調子が良さそうだ。ここはバナナやリンゴなどの消化の良い、旅のお供を買っておこう。
もちこの周りに荷物を魔法陣のように並べ、お買い物に出発する。ここで寝てるよと呟く彼女は、ちょっと顔色もイイ感じだ。
さらにすぐ近くに売店もあり、外から見ても心が躍る。喜び勇んで突撃すると、その魅惑的な商品に目を釘付けにされる。
まぁ素敵…。
マダム的な感想を呟きながら、魅惑的な商品を眺めて歩く。カップラーメンを始めとする未知の商品が、四方八方から手招きしている。
見たこともないソーセージに、味の想像できない燻製おつまみ。小動物が食べたらヤバそうな色のハムに、謎の味漬け卵。
絶対美味しいよね!?と自問自答する、攻撃的な色合いの食品たち。これには私のがま口も、繰り返しパカパカ開閉してしまう。
全部買いたい。
荷物と財力が許すなら、全て一個づつ買い占めたい。そして新幹線の車内で、勝手に美味しいおつまみランキングを開催したい。
しかしここは、もちこのために消化の良い果物を買うべきか。彼女の胃腸が完治するまで、食事も合わせるのが男気だ。
そう考えて、真っ赤なリンゴを2個購入する。(約3元:約51円)モリモリ買い食いするのは、明日以降のお楽しみにとっておきたい。
人の溢れる待合室と、超快適な新幹線一等席
そして駅の入り口では、厳重な荷物検査が実施されている。X線、金属探知機、警備員の触診など、その種類もかなり多い。
自分、テロリストだったかな?と錯覚するほど、執拗なボディチェック。日本より明らかに厳しい警備体制に、異国感を痛感する。
そして私もヘアスプレーを没収され、駅構内に通される。これにてこの横断旅行が、全てペタンコヘアーになることが確定してしまった。
さらに凄まじい人波に揉まれ、民族大移動のように待合室に移動する。そしてそこでは、殆どの人々が地面に座っている。
ただご年配はしっかり席に座り、どうやら譲り合いが基本のようだ。きっと地べたに座った若者たちも、人生の先輩方に席を譲ったのだろう。
あっぱれ!やはりこの国の人々は、根本的に優しい。
そして私たちも、同じように地べたにぺたんと座る。いや実際は入浴時の江戸っ子的に、よっこいせと座る。
さらに待ち時間も沢山あるため、空腹も満たしておこう。先ほど買った林檎の美味しさに震えながら、芸術的な芯を作り上る。
そして解錠と同時にホームになだれ込み、新幹線に無事乗車。意外とスムーズに乗車でき、基本は日本の新幹線と相違ない。
そしてこれがこの旅で何度もお世話になる、和諧号との初対面。彼がこれから何度も運んでいただく、頼れる相棒である。
あぁ、これが一等席か。
最高に綺麗な車内に、ツイン座席のゆったりシート。リクライニングもフワフワで、ストレスも皆無。
クーラーも標準装備で、前には食事用の棚も設置されている。日本の新幹線と非常に良く似た、最高の心地良さだ。
ただ果たして、これで良いのだろうか。いきなりこんな快適空間に包まれ、二等席で満足できない体になったらどうしよう。
しょっぱなから一等席に使う私を、バックパッカー神はお怒りになるだろうか。バスどころか一等席って!と、古い杖とかで叩かれないだろうか。
さらに天井付近にはテレビもあり、言語が分かればお暇もない。これが僅か4000円程度とは、日本の金銭感覚なら格安だ。
背もたれもそろりと倒し、後ろの方にニッコリ挨拶。座席倒していい?と日本語で尋ねても、コワモテおじさんは笑顔のまま。
重い荷物を戸棚の上に乗せ、足をゆったり伸ばす。するとまだ15時にもかかわらず、なんだか眠くなってきた。
もちこも睡眠態勢に入り、ここは体力を温存するべきか。そう思って目を閉じると、直ぐに寝れそうな心地良さに包まれる。
周囲に響く大声の電話声と、イヤホンを付けない爆音のタブレット。多方面から聞こえる、ヒマワリの種を齧るポリポリ音。
あぁ、本当に中国に来ているんだ。そう感じながら眠りに落ちる瞬間は、とても心地良かった。
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