中国旅行記3 騒がしい新幹線と世界遺産平遥古城の夜
初の快適新幹線。
いきなり一等席の心地良さを味わう、中国初の長距離移動。こんなビップな経験をして、これからがちょっと心配だ。
旅の二日目、目指すは世界遺産・平遥古城。その街は寒々しい夜も、未体験の魅力に溢れていた。
19時42分の到着時間まで、揺られること約3時間半。車内はネットもSNSも繋がらないが、退屈を感じる暇もない。
これは遅めの夏休みを使った、2週間の中国旅行記。皆様に少しでもお楽しみいただければ、最高に幸せです!
あらゆる音が騒がしい中国新幹線
よく寝た。
目が開きたがらないほど、すごく寝た。
一等席があまりに心地良く、体もぐっすり熟睡。どうやら硬直していたらしく、手足もカチコチに固まっている。
ふと時計を見ると、時刻は既に16時半。貴重な初新幹線を、約1時間も浪費していたのか。
しかも恐ろしいことに、まだ余裕で眠れそうだ。普段は有り得ぬリュックの重さで、体も想像以上に疲れていたのかな。
つまりこの短時間で起きれたのは、単なる偶然。それは日本ではあまり感じない、周囲の騒々しさのおかげだった。
まず私を起こしたのは、爆音アニメ。言語は分からないが、スポンジボブ的なノリが車内に轟いている。
さらにその発生源は、一箇所ではない。車内の複数の場所から、着払いで贈られてくる。
うっとりする中国民謡や、聴いたことのある西洋ベストヒッツ。そこにスポンジボブがコラボし、もうてんやわんやだ。
さらにそこに加わる、大声で電話するおじさん部隊。耳の遠いお爺さんと話しているのかと疑う、驚異の大ボリューム。
そして追撃する、ヒマワリの種を齧る無数の音。ポリパリパリポリ香ばしい音が、断続的に車内を包み込んでいる。
うるさい。
私がこの国に不慣れな外国人だと、自覚はしている。しかし、それでもうるさい。
なぜこれほど、騒がしくできるのか。この環境で熟睡する相方もちこは、やはり大ベテランだ。
ここには一体、何千匹のリスと何頭のスポンジボブがいるのか。一等席でこれなら、二等席には何万匹放たれているのだろう。
いや、まてまて。私は何と、心が狭いのか。
別に法に触れているわけでもなく、この国ではこれが常識。静まり返った山手線と比較する、私こそがクレイジーだ。
これもまた中国という国の、大切な文化。新幹線=静かという先入観は、私が勝手に持ち込んだ常識。
さらに周囲に耳を傾ければ、結構楽しいじゃないか。スポンジボブとエドシーランのコラボなど、なかなか聴けない体験だ。
そしてふと外を見ると、中国独特の高層マンションが乱立する。まるで近未来が部隊のSFのような、同じ構造の住民棟が無数に立ち並ぶ。
まだ足りない!と言いたげに、乱立する高層マンション。何時間も続く車窓からの光景に、それらは何度も現れる。
あぁ、なんだか力強い。この国の経済力が、この生まれたての高層ビル群に表現されているのだろう。
誰かが中国のバブルは弾けたと言っていた。でも彼らは、まだ元気いっぱいだ。
それは、彼らの快活さと積極さに表れている。特に旅の至る所で感じる彼らの商魂は、見習うべき大切な要素に違いない。
そんなデキる社会人風の思想を膨らませ、私はリュックをガサゴソ探る。林檎一個で満たせなかった空腹感を、お煎餅で満たしたい気分なんだ。
しかしいくら探せど、一枚も見当たらない。どうやら昨晩の三枚が、日本から持参したラストお煎餅だったらしい。
でも大丈夫。
この新幹線には、とっておきのお楽しみがあるんだから。それは車内販売されている、猛烈な数のお弁当である。
目移りせざるを得ない、豊富な車内販売
その数、ざっと95種類。
これに目移りしない人がいるだろうか、いやいない。
しかし勿論全て中国語のため、全然意味も分からない。もし適当に頼んで、とんでもない物が運ばれてきたらどうしよう。
ジャガ芋や人参が描かれた、写真下部。中国語が読めない私は、生の人参を購入してしまう危険はないだろうか。
しかし左下の写真を見る限り、大当たりに該当するハーゲンダッツもある。もしくはここは無難に、お弁当的な写真の近くから選ぶべきかもしれない。
冒険するべきか、無難に行くべきか…。次男としての性格が、私にやんちゃしろ!と囁いてくる。
いやまてよ。
ここはメニューの語尾を見るのが、お利口さんなのではないのかな。麺や飯と書いてあれば、十中八九は主食系のはずじゃないか。
賢い。公文式行ってて良かった。
危険な辣や麻の文字などに惹かれるから、失敗するんだ。ここは無難に空腹感を満たすためにも、万全の安全策に徹しよう。
そう考えた私は、ずっと待った。車内の売り子さんが歩んでくるのを、ひたすらヒマワリの種を食べながら。
…しかしこれが、なかなか来ない。待てども暮らせども、全然現れる様子が無い。
もしかして、どこぞの華僑が買い占めてしまったのか。そして在庫不足になって、もう売る商品が無くなっちゃったのかな。
全然こない。
時計では30分待ち、精神的には3日待った。しかし全く現れない売り子さんに、もはや空腹感も限界だ。
先ほどから齧るヒマワリの種など、お腹の足しにならない。これはあくまでも、歯に詰まるだけの嗜好品なのかもしれない。
ハム太郎ならまだしも、立派な成人男性だ。ヒマワリの種で満腹にするなど、ウニでお腹いっぱいにするくらいの難易度である。
そしてさらに待つこと、約35分。遂に前方から、待望の売り子さんが現れる。
き、きたっ!校門で待ち伏せしてる気分だっ!恋文持っていないけど。
待ち焦がれたその光景に、テンションも一気に跳ね上がる。そして再度メニューをチェックし、頼む商品を再確認する。
しかしこれがまた、めちゃ早い。
ご飯いかがっすか的なアナウンスと共に、すごい速度で通り過ぎようとする。
まるで画面から速攻消える、ファミコンのボーナスアイテム。このアイテムを取り逃したら、きっと夜まで絶食だ。
通り過ぎようとする彼女を、慌てて引き留める。そしてお弁当一覧の近くの、何ちゃら飯をオーダーする。
すると売り子さんが、何かを尋ねてくる。どうやら注文したご飯に関する、何か質問があるのだろう。
ああ、これは進研ゼミでやった問題だな。辛い調味料いります?的な、付け合わせのご質問かな。
そう考えていいよ!と頷くと、売り子さんは首をかしげている。そして何言ってんの?という感じで、再度質問を重ねてくる。
全く理解しない私に、売り子さんも大変お困り。しかも親切なことに、何度も繰り返し伝えようとしてくれる。
どうやらこれは、私の守備範囲を完全に超えている。仕方なく熟睡中のもちこを起こし、彼女の質問を聞いてもらう。
するともちこは、申し訳なさそうに訳してくれる。どうやら先ほどの返答は、ご飯に対する質問では無かったようだ。
このご飯、もうないんだって。この時間は、これだけだって。
そう言いながら、謎のお弁当を指さしてくれる。麺とも飯とも書いていないそれは、全然そそられない名前だ。
そして価格も、非常に低価格。これはきっと主食系ではなく、駅で見かけたお菓子的なものだろう。
なんという不運…。
新幹線最大の楽しみ、車内ご飯が封印されてしまった。無念と無力感に包まれ、そっと手元のメニューを閉じる。
ここは大人しく、平遥古城についたら美味しいご飯を食べまくろう。到着も17時過ぎ、きっとご飯屋もまだ開いているから…。
そんなご飯計画を再考して、もちこと売り子さんにお礼を伝える。すると可哀そうに思ったのだろう、もちこが素敵な飲み物を買ってくれる。
美味しい (*‘∀‘)
いつの時代でも、賑やかな車内でも、それがぬるくても。中国のビールは、本当に美味しい。
日本の発泡酒すら下回る価格に、無数のバリエーション。私は今回の旅で、この飲み物に何回お世話になるのだろう。
ご機嫌も加速し、ぱっちり目を覚ましたもちこと雑談をする。すると二週間先に前乗りしていた彼女の話は、とても面白かった。
中国西部の砂漠では、オレンジの砂避けが観光客に無料で配られていたこと。そしてそれを知らず、カメラに砂が入って壊れてしまったこと。
さらにその無料の砂避けを、現地の中国人が売りつけてきたこと。5元のお勉強代と共に、彼らの逞しい商魂を見せつけられたこと。
大忙しの国慶節には、砂漠のラクダも無茶苦茶お仕事をさせられていたこと。昨年はその忙しさのせいで、ラクダも過労死してしまったこと。
なんて面白いんだろう。さすがは中国4000年。たった二週間でも素晴らしい濃度だ。
マイクラの100倍面白いよ、いやマイクラも結構面白いよ。そんな話をしながら、のんびり中国を満喫する。
目的地の平遥古城まで2時間半、それはあっという間だった。
美しい平遥古城駅と市内へのタクシー移動
19時42分。
予定ぴったり、新幹線は目的地に到着する。駅のホームは11月下旬に感じる、結構な寒さだ。
パスポートと財布、スマホにカメラ。一番重要な忘れ物を指さし確認し、よいしょとホームになだれこむ。
ここが第二の都市、世界遺産・平遥古城。夜も遅いため観光的な雰囲気は少ないが、それでも大変煌びやかだ。
駅は想像より遥かに大きく、多数の乗客が乗り降りしている。さすがは世界遺産を構える、主要且つビックステーション。
周囲には多数の煙が立ち込め、思わずむせ返す。それは下車と同時に喫煙を始める、人々のタバコの副流煙だった。
少し話は変わるが、この国の人々は本当にタバコ好き。勿論車内では吸わないが、駅構内でもガンガン嗜まれる。
さらに僅か数分程度の一時停止でも、ホームに降りて火をつける。さらに新幹線を降りる際には、沢山の方が既にタバコをくわえている。
中国の人、みんなすごいタバコ好き。そんなお話だ。
そして外に出ると、煌びやかなライトアップで出迎えられる。美しい古城をイメージさせる、暖かでホッとする色合いだ。
同時に沢山の現地人が集まり、観光客たちが囲まれる。それはカツアゲではなく、俺のタクシー乗ろうぜ!のお誘いだ。
たしかに平遥古城駅から市内までは、かなりの距離がある。歩いて行けそうにない距離のため、夜のタクシー利用は必須なのだ。
そのため新幹線の到着に合わせて、沢山の個人タクシーが駅前に集結する。彼らにとっても一日に数回しか訪れない、大切なビジネスチャンスである。
この機会を逃すまいと、積極的に声を掛けるタクシー運転手。中には英語で話しかけてくる、ポップな若者もいらっしゃる。
そしてそのポップ君と英語で交渉し、50元で市内まで運んでもらうことにする。OK!OK!と連発する彼は、きっと友達が多いタイプだ。
彼は私達のリュックをトランクに乗せ、私達は後部座席に乗り込む。新幹線の一等席ほどではないが、ナイスな座り心地。
そしてさぁ行ってくれポップ君!と告げると、彼はいきなり車を降りる。そして( ゚Д゚)?といった表情の私達に、彼はこう言いだした。
もう一組捕まえるから!車で待ってて!
何という行動力。既に結構ギチギチのこの車内に、さらに人を乗せるつもりなのか。
確かに彼的には、もう一組獲得してお稼ぎしたいはず。すると私たちの返事を待たず、彼は車の扉をばたんと閉める。
すぐに戻ってくるから!と言い放ち、駅に向かって猛ダッシュ。追加で6人くらい勧誘してきそうな、凄まじい勢いだ。
何と天晴な、生きる力だろう。もし日本でこれをやろうものなら、タクシー会社に連絡されちゃうかもしれない。
そして客を待たせんじゃねぇ!と、怖いおじさんに怒られちゃうかもしれない。すごく怖い。
ただあいのりなど、こちらは大歓迎。超太った人が乗ってこないかな?などと期待しつつ、もちこと車内で待機する。
すると待つこと約5分、ポップ君が駆け足で戻ってくる。同時に観光客らしい中国人カップルが、申し訳なさそうに乗り込んでくる。
計5人と大量の荷物が、狭い車内にむちむちに押し込まれる。もしここで放屁しようものなら、完全に事案である。
そして我々を乗せたタクシーは、大通りに向けて出発する。古城駅を離れると次第に、街頭も徐々に少なくなってく。
窓の隙間から吹き込む風は、冷たくて冬の匂いだ。そして通勤ラッシュの混雑を抜けると、タクシーはだんだん速度を上げていく。
またこれが、どえらい早い。
今朝の北京のタクシー運転手を超える、驚異の速度。この少年の運転は、この旅のベストぶっ飛ばし賞を差し上げたい。
対向車線に入るわ、暗闇で120キロ近く出すわ、前の車を煽るわ。もはや私が知る移動手段の中で、最も事故率の高い乗り物だ。
いつ事故るか分からない緊張感で、走馬灯も躊躇する。出ちゃっていいのかな?と、ちょっと悩んでいるはずだ。
さらに運転中にもかかわらず、彼はWECHAT※を操る。どうやら他の運転手達と、逐一連絡を取り合っているようだ。※中国のLINE的連絡手段
恐らく彼は、平遥古城駅と市内をもう一度往復するつもりなんだ。だからこそ、これほど高速で目的地を目指しているのだろう。
もはやアトラクション。ディズニーランドでは決して承認されない、かなりの恐怖である。
しかし彼の運転を体験すれば、飛行機などの恐怖心は克服されるだろう。もし飛行機の揺れの恐怖を克服するなら、古城駅でJAY=Zを聞いている少年をお勧めしたい。
ただ震える私たちとは違い、同乗した中国人カップルはケロリと平然。やはりこの国では、これが一つのスタンダードなのか。
そしてタクシーは、あっという間に平遥古城市内に到着する。この街こそ、仕事中に何度も予習した超ワクワクスポットだ。
全ての建物が低く、まるで西部劇の街並み。さらにその街並みには、中国らしいカラフルな電灯が輝いている。
美しい…。
我慢できず車内で写真を撮り、暗闇にあるはずの世界遺産を目で探す。せわしなく目を動かす、幸せな忙しさだ。
そして同時に思い出す、私は空腹だった。飯や麺の文字が目に入れば突撃確定の、べらぼうな空腹感だったんだ。
タクシーは手ごろな場所で停車し、直ぐに運転手に代金をお支払い。そして軽い荷物の中国人カップルは、一足先にご飯屋さんに向かってしまった。
私たちも後を追うように、美味しそうなご飯屋を散策する。中国に到着して丸一日、まだキチンとしたお店で食事をしていなかった。
夜の市内で楽しむ中華料理店
煌びやかで、なぜか少し煙たい夜の平遥古城。行きかう人の少ない街並みで、絶品ご飯を出しそうなお店を手繰り寄せる。
そして通りを少し歩くと一軒のお店を発見し、値段も考えず突撃する。この際少しくらい高額なお店でも、挨拶代わりにお支払いさせていただこう。
壁にずらりと掲げられたメニューに、綺麗に包装された食器。まるで田舎のお婆ちゃん家のような、不思議な懐かしさだ。
そしてメニューに掲げられた、平遥古城特色小吃の文字。きっとこれは、平遥古城の特色ある御飯ですよ!的な意味だろう。
うん、すごく良い。到着10分で現地の食事を楽しめるなんて、最高にラッキーだ。
ずっしり背中を圧迫するリュックを傍に置き、メニューをチラ見。すると店内では、3人の店員と白黒の猫が床に寝転んでいる。(店員さんは寝転んではいない)
まずは数少ない使える中国語で、ピージョ(ビール)を注文。(8元:約136円)冷蔵庫から直に渡されるキンキンの液体は、まさに至福のお味である。
また飲んどる!と笑うもちこにメニューを渡し、食べられそうな物を選んでもらう。まだ胃腸が3割程度しか機能していない彼女は、今晩もご馳走はおあずけだ。
私は申し訳ねぇと告げ、美味しそうなご飯を目で愛でる。ここはガッツリ&定番料理を注文し、初めての中華料理を満喫しよう。
おばちゃんに注文を済ませ、待っててねと笑顔をいただく。椅子はフカフカで心地良く、他にも約10人の現地の方が食事中だ。
さらに隣の席では10代後半の男女5人が円卓に座り、豪華な夕飯を楽しんでいる。見るからにお金持ちな彼らは、きっと花団で言うところのエフ4なのだろう。※花より団子
絶対に食べ切れないだろう量を注文し、北京ダックも一口だけ食べている。後から聞いた話では、中国では残すのも一つの文化とのことだった。
しかしあの北京ダック、どう考えても勿体ない。アヒルへの敬意をこめて、ジップロックでお持ち帰りするべきだ。
そして次の日もそのお肉を切って、サンドイッチにして…。そんでお弁当にも入れて、職場で自慢して…。(ブツブツ)
ブツブツ言ってると、おばちゃんはすぐにご飯を運んでくれる。やたら一皿が大きいその料理は、まさに夢見た本格中華だ。
先陣を切って現れる、麻婆豆腐ならぬ麻辣豆腐。(15元:約255円)見た目とは裏腹に、全く辛くないお豆腐の炒め物である。
タップリの油で炒められた、醤油と味噌の旨み。しっかりと水分を切られた食感は、まるで厚揚げの様な弾力のある食感。
味つけは少し薄く、正直ご飯との相性はまぁまぁ。ただそれでも空腹を満たすお豆腐の甘みと旨みは、とても美味しい。
さらに追加注文した、豚肉の木耳大蒜炒め。(15元:約255円)こちらは白米に最適だと確信し、迷わず注文させていただいた。
大蒜のシャキシャキ感と、小麦粉衣の濃い目の豚肉フライ。醤油と塩味がベースで、こちらも想像以上に全体は薄味である。
理由はおそらく、膜を張るほどの大量の油。この油をもう少し減らせば、きっとよりご飯に合うだろう。
ただこちらも味つけはとても好み、ホッとする美味しさが嬉しくなる。特に噛みしめる度に旨み溢れる柔豚は、羨ましそうに見るもちこには申し訳ない美味しさだ。
そしてこちらは、もちこ専用白湯スープ。(14元:約238円)沁みこむ優しい味を求めて、彼女が注文した唯一の一杯。
しかし問題なのが、その大きさ。比較写真がなく申し訳ないが、まるでチワワのベットである。
絶対飲みきれないのは、覚悟していたよ。
そういうもちこは、過去に台湾で愛飲していたらしい。そしてそれは、決して二人で注文するような量ではないとのこと。
それほどの覚悟が必要な、中国の巨大スープ。どうやらこのお店だけでなく、あらゆるスープが特大らしい。
私も一口、そのスープを貰う。すると口に含んだ瞬間、衝撃的な事実に気づく。
味が皆無である。つまり抜群の薄味なのだ。
何だろう、この優しさは。この味に名前を付けるなら、マリアとかが相応しい。
薄い。1つと言わず、3つほど入れ忘れている気がする。
しかし相方曰く、これが中国スープの常識とのこと。素材を存分に楽しむ味で、お白湯のように頂戴するらしい。
確かに繰り返し飲むと、何やら五感が冴え渡りそうな味付けだ。毎日飲みたくなるスープとは、意外とこういう味付けなのかも。
美味しい食事を存分に楽しみ、隙間にお酒もごくりといただく。至福の時間を味わいながら、もりもりお腹を満たしていく。
そして全てをペロリと頂き、お礼を告げてお店を出る。同時に初めての中華料理に、今後のご飯ライフの安泰を確信する。
すごく好みの味付けで、本当に良かった。もし本能が嫌がる味付けだったらどうしようかと、不安だったんだ。
さらにドミトリーを探す途中で、夜食のお菓子も購入する。修学旅行と中国旅行と言えば、お菓子の夜食は絶対条件だ。
スーパーで購入したお菓子を抱え、ルンルン気分で街を歩く。夜の空気はとても冷たかったが、この楽しさが防寒着代わり。
所々の渡り路もスケールが大きく、20mはある門をくぐる。すると明代初頭から何百年も崩れなかった、屈強な街並みが広がる。
古城の壁下も抜け、夜の街をスタスタ進む。ここは大通りにもかかわらず、何かに囲まれている感覚だ。
暗闇で街の全容は見えないが、まるで山の様な圧迫感。きっと肌に感じるこの感覚は、見えない古城の圧力なのだろう。
宿泊激安ホテル鴻鵠客桟
暗闇を歩くこと約5分、鮮やかな建物に到着する。もしネットのお力を借りなければ、30分は彷徨っていた。現代っ子、バンザイ。
背中のリュックの重さも手伝い、雪崩れるように門をくぐる。そしてこの美しい門構えこそ、本日お世話になるドミトリーだ。
鴻鵠客桟。
本日お世話になる、こちらのドミトリー。二週間のバックパッカーを支えてくれる、大変リーズナブルなお宿である。
その雰囲気は、まるで歴史感が売りの京旅館。日本とテイストこそ違うものの、外国人を吸い寄せる圧倒的な異国感だ。
趣ある門構えと装飾に、中国の夜をイメージさせる赤い提灯。中で小坊主がカンフーをしていても不思議ではない、グッとくる雰囲気じゃないか。
気になるお値段は、二泊二名で約350元(約6000円)。驚異の感謝価格で迎えてくれる、何とも嬉しい優良店である。
中に入ると、綺麗なロビーが広がる。さらに受付には20代前半の女性が座り、何やらスマホゲームに興じている。
すみません!と日本語で話しかけると、ハッ!と気が付いてくれる。そしてすぐに様々な手続きを始め、何とも機敏な働きっぷりだ。
ただどうやら宿泊データが見当たらないらしく、支配人らしき人に電話をする。不安に感じたもちこが尋ねると、どうやらダブルブッキングの可能性があるようだ。
ダブルブッキング。つまり重複申し込みで、部屋がないかもしれないということ。
なんということ…。仮にそうだとしたら、もしや私達はこの寒空に放り出されちゃうのか。
そんな心配をしながらも満腹感と眠気に襲われ、待合室のソファーに腰を下ろす。私たちがダブルブッキングを憂いても、ぶっちゃけ今はどうしようもない。
ここはスマホゲームで鍛え上げた、彼女の状況処理能力にお任せしよう。先ほど見せてくれた指使いなら、きっと上手くいくよ。
さらに周囲を見渡すと、ドミトリーの無線WI-FIが。暇を持て余してダメもとでインスタに接続してみるが、やはりビシっと弾かれてしまう。
どうやらこの国の政策により、TWITTER・FB・インスタに接続できない。何度接続しても、ウンともワンとも言わない。
ただこれほど待ち望んだ、念願の中国バックパッキング。ここはSNSを封印し、この旅を満喫することだけに注力しよう。
ポップでキッチュなツイートを諦め、スーパーで買った今宵の夜食をチェックする。するとそこには、見るからに美味しそうな幼少期から変わらぬ好物が広がっていた。
拉麺、ポテチ、ビール。(ビールは大人になってから。)
冒険心ゼロか!と相方に一喝された、古城の夜の相棒達。ツッコまれるとは分かっていたが、好きだから許して欲しいんだ。
本当はもっと沢山購入したかったが、旅もまだまだ序盤。お楽しみはゆっくり小出しにし、長く楽しもうじゃない。
・青島ビール 5元(約85円)
・ポテチ(BBQ味) 3元(約51円)
・紅焼牛肉面 5元(約85元)
今宵のお供を眺めていると、受付女性が声をかけてくれる。どうやら予約は、同じ鴻鵠客桟の別棟で取られていたようだ。
受付女性に誘導され、暗い古城の街並みを再度歩く。すると一度置いた荷物の重みが、もう一度ずっしり肩にのしかかる。
ただ予約が無事取れていることが分かり、気持ちは軽快。後は一体どんな部屋なのか、最初のワクワクを楽しむだけ。
ただし今回は、1泊1500円程度の格安お宿。失礼かもしれないが、あまり期待してはいけないのかもしれない。
意外なほどに素晴らしいドミトリー鴻鵠客桟
緑のツタが絡みつく門をくぐり、別棟へと辿り着く。そこでは意外にも豪奢な入り口に、あっと驚かされる。
入り口にはライトに投影された宿泊地名が、ホログラフのように反射する。中に入ると、人々が集う庭園が広がっている。
実際に沢山の若者たちがトランプに興じ、楽しそうに歓声を上げる。この寒空でも友人達との時間は、やはり最高に楽しいのだ。
赤提灯の浮かぶ真っ暗な受付でチェックインを済ませ、鉄の鍵を手渡される。どうやら私たちの部屋は、鉄の錠前で閉めるタイプのようだ。
さらに部屋は奥の方にあり、緑の茂みにチクチクされつつ捜索する。すると辿り着いた本日のお部屋が、こちら。
THE・中国。
こんなに中国感の溢れるお部屋が、他にあるだろうか。一晩寝れば中国語を30個覚えそうな、抜群のチャイナ感である。
うんうん。すごく好みだ。虎の敷物こそ無いものの、最低限の設備は整っている。冷蔵庫や浴槽も見当たらないが、二泊するには必要十分じゃないか。
いいよぉ…。バックパッカー感出てるよぉ!
ただきっと、本物のバックパッカーには落第点なのだろう。しかし我々偽パッカーにとっては、何とも頑張っちゃった気分である。
早速荷物をほどき、最も気軽な服装に衣替え。胃腸の壊れたもちこは即座にゴマフアザラシに変身し、布団にモゾモゾ潜りこむ。
この段階で、彼女の胃腸は50点といったところ。本日も大事を取って、ゆっくりとお休みしていただこう。
しかし私には、夜食という最大のお楽しみが待っている。思うに旅とは、夜11時でもポテチの袋を平気で開けること、ではないだろうか。(哲学)
まずは無難な味付けを選んだ、ポテチをビリリ。すると中には驚くほど少量のポテチが、申し訳なさそうに並んでいる。
まるでAMAZONの配送の様な、無駄に大きい包装。さらに容易に想像できる味付けも、何とも最高だ。
平均的なBBQの味は、ビールともすごく良く合う。部屋も最高に理想的、お酒も手伝い最高にご機嫌である。
さらに美味しそうなカップラーメン(牛肉面)も、もちこに気付かれないよう作成する。こちらも新幹線で隣の席から私を誘惑していた、大変いけない子だ。
開けやすい表面をビリリと剥がすと、具材袋の多さに驚く。さらに液体ソースと粉末、固形具材とフォークが用意されている。
何と美味しそうなのだろう。スーパーカップに似た、この包装も最高だ。
ただ残念なことに、重要な待ち時間がどこにも見当たらない。きっとどこかに書いてあるのだろうが、私の中国語力では解読不能だ。
でもきっと、カップラーメンの茹で時間って世界共通だよね。このビジュアルから考えても、3分でOKじゃないかな。
そう考えて、とりあえず2分放置する。とんこつラーメンでもバリカタ一択、固め大好き系男子だから。
激硬である。
フォークが直立するほどの、圧倒的バリカタ。味わい以前に、食べられないレベルだ。
どうやら私は、最も不味く作る方法を選んでしまったらしい。どう考えても、これは作成サイドに問題がある。
そしてその正しいゆで時間は、後日目撃することになる。それは、私のカップラーメンの常識を覆すものだった。
激カタ麺をすすりながら、残ったスープに癒される。さらにビールを右手に、全く理解できない中国語の番組を満喫する。
あぁ、すごく楽しかった。でも明日は、もっと楽しくなるよね。
ハム太郎のような感想を想いながら、リュックから歯磨きを取り出す。するとそこには、日本から持参したシュミテクトが盛大に広がっていた。
~旅の続きは電子書籍・WEB版で!~
ご覧いただきました旅行記をオフラインで一気に読める、電子書籍はいかがですか?
キンドル読み放題対応ですので、是非ご覧下さい!
※iphone・アンドロイド端末でも、Kindleアプリでお読みいただけます!
~WEB版はこちらから!~