中国旅行記21 声を奪われる夜・昼ダブルの絶景鳳凰川下り
静かに出発する、鳳凰夜川下り。
地上から見る景色、川から見る景色。同じ建物と街並みのはずなのに、その光景はまるで鏡の下に潜ったような。
鳳凰にいられる時間も、あと僅か。次第に増えていく似たような写真を、大切に保存しよう。
無言必須の夜の鳳凰川下り
遂に始まった…。
船の揺れを感じると同時に、周囲から歓声が沸き起こる。そしてここからは、言葉が役に立たない時間の始まりだ。
何度もネットで拝見し、思いを馳せた鳳凰夜の川下り。いざそのスタートラインにつくと、無意識に無言になってしまう。
運動会の緊張感に、すごく似ている。小学3年生の頃、盛大にこけたあの運動会の。
僅かに川面が揺れ、隣接する建物の反射光が少し歪む。同時に川の香りがふわりと広がり、子供の頃の川遊びを思い出す。
あぁ、そうだった。幼少期のスイミングスクール合宿で溺れた時も、確か同じ香りだった。
そんな子供の頃の思い出が、連続で浮かんでは消えていく。魅惑の夜の鳳凰川下りとは、そんな不思議な時間。
そしてここから、無言になる。私だけでなく、周囲の乗客達も一斉に。
わぁ…。
へぇ…。
あらぁ…。
やだすごい…。
ほほぉ…。
素晴らしい…。
あらら…。
どうしましょう…。
……。
( ゚Д゚)(呆然)
語彙力がお留守番になること、約30分。鳳凰夜の川下りがそっと終了する。
「まるで○○みたい」「○○に似ていた」
本来ならその様に、この光景を努力して表現するべきかもしれない。
しかしこの、鳳凰夜の川下り。私の言語力では、到底太刀打ちできない光景ばかり。
痺れるほどの光景の数々には、もはや語彙力は無力。逆にとっても綺麗でしたと申し上げたほうが、正解なのかもしれない。
いやぁすごい。とってもすごい。
絶句したまま、船頭と船乗りの方々にお礼を伝える。するとどうや、すごいやろといった表情で、彼らはにっこり笑ってくれる。
船を降り、川沿いからも再確認するように振り返る。川沿いからの光景もやはり美しく、この街の完成度の高さを再確認する。
まるで鏡の中に入り込んだような、水面と建築物のダブルのライトアップ。この夜景専用の形容詞が欲しいほど、堪えられない美しさだった。
はぁ、すんごい…。
なぜかちょっと疲れを感じ、これは一杯飲むしかない。さらにもちこの足事情を加味すると、お店に入るべきだろう。
何故ならこの鳳凰を始めとする中国の多くの場所では、公衆トイレが軒並み和式。もし洋風トイレを求めるならば、オシャレなBARやカフェ等に飛び込む必要がある。
捻挫で足パンパンのもちこにとって、和風の踏ん張りスタイルはまさに地獄。そのため散財覚悟でBARに飛び込み、洋風トイレをお借りしなければいけないんだ。
わかる。無茶苦茶にわかる。
足が痛い時の和式おトイレは、地獄だもの。踏ん張る+痛みに耐える、二つの努力を並行しなきゃいけないものね。
早速もちこが移動できる距離で、おしゃんなお店を散策する。川下りの感想を話し合う時間も、少し欲しかったところだし。
そう考えて発見した、一つのお店。それは川沿いの二階に位置する、何とも雰囲気のある空間だ。
アンビエントな雰囲気の曲が流れ、川沿いの家色も楽しめる。まるで隠れ家のような佇まいが、マカロン並みにお洒落である。
しかし繰り返しになるが、お洒落だ。これは諭吉が裸足で逃げ出すお値段に違いない。
店内に爆発する、想像通りのオシャレ感。絶対誰も読んでいない、表紙買いしただろう本で一杯だ。
そして席に着くとすぐに、もちこがトイレにダッシュする。いや実際には捻挫の影響から、ひよこの様にひょこひょこトイレに向かう。
やはり我慢していたのか。がんばれひよこ。
その間にお酒と珈琲を注文し、すぐさま目の前に運ばれてくる。こちらも二つで約110元(約1.870円)と少しクレイジーな価格だが、本日は全然OKだ。
先ほどの夜の川下りの余韻が強く、もはやお財布事情も気にならない。ここで鳳凰のキーホルダーとか勧められても、余裕で2個くらい買ってしまう。
そういえば、鳳凰のお土産まだ全然買っていないなぁ。できれば鳳凰っぽいデザインのものを、一つ買っておけば良かったな。
そんなことを考えていると、もちこがひょこひょこ戻ってくる。どうやら安心の洋式設計だったらしく、長時間の飲み会になっても安心だ。
良かった良かった。お手洗いが気になっていたら、楽しいお酒も楽しめないからね。
さらに通された席の見晴らしも良く、これは何杯飲むことになるのだろう。ただ昼間に買ったお酒もあるから、きっと一次会的な立ち位置になるね。
先ほど船で下ったコースを、早速ドミトリーで貰った地図で確認する。どうやらあの距離でも沱江観光地域の1/3程度らしく、その広大さに感服する。
残りは次回来た時だね!と言いながら、お酒をちょびちょび飲む。しかしお互い、ここがそんなに簡単に来れるない場所だとは理解している。
この中国の奥地に再訪するのは、一体何年後になるのだろう。しかし今の時代、決心さえすれば楽勝で来れるのも事実だ。
要は数分の決断力。
AMAZONは迷うよりポチる!
そんな人の方が、人生経験が豊富なのではないかな。
実際にこの中国旅行も、本当は何年も何年も願っていた。しかし様々な小さな理由が積み重なり、その実現が伸びてしまった。
お仕事の進行状態、季節のイベント、エアチケットのお値段。同僚の有給申請や繁忙期、レシピサイトの更新や切りすぎた前髪の育成など。
小さな理由が重なり、その度に決心が鈍っていた。ただ勢いでチケットをポチってしまうことで、あとは焦りが解決してくれたのだ。
折角行くのなら、見たこともない場所に行こうと。そしてもちろんツアーではなく、全て現地でやることを決めようと。
大きなリュックを買ってしまえば、ドミトリーを予約してしまえば。あとは焦りが解決してくれ、やるべきことを終わらせてくれる。
自分を焦らせるって大切だ。でもお仕事では、そんなに焦りたくないけど。
そして明日でこの鳳凰とも、お別れだ。悲しくなるかと思ったが、意外とへっちゃらな気分である。
何故ならこの旅の記録を、旅行記という形で残せるから。自己満足に近いものだが、そのおかげで寂しさも感じない。
いきなりではあるが、この旅行記をお読みいただき本当に有難う。一人の方でもお読みいただければ、最高に幸せだ。
そして約1時間ほどお酒を酌み交わし、明日の予定を確認する。明日は夜の20時、予約した運転手にお迎えに来ていただくことになっている。
つまり残された時間は、あと24時間。丸三日もあった憧れの鳳凰散策も、どうやら終わりが近づいているようだ。
しかしここで悲しんでは、残りの24時間に失礼だ。ここから実は一泊でしたぁ!と自分を誤魔化し、鳳凰を満喫するべきだ。
最初から一泊しかなかったと思えば、今日は旅行の初日である。あぁ、ついに鳳凰に来たなぁ!と、自分を錯覚させてしまおう。
そう決心してお店を飛び出し、二件目に突撃する。もうお酒は存分に楽しんだから、〆のデザートを食べたいんだ。
先ほどのお店で食べても良かったが、珈琲でも一杯50元と大変お高い。ここは今後の旅を考えて、庶民価格のお店に移動しよう。
さらに外は少し肌寒かったが、ギリギリまで鳳凰の夜を楽しみたい。そう考えて二件目でも、同じく川沿いの席に座らせていただく。
この旅で、何回お世話になっただろう。20元(約340円)で食べられる、この極甘アイスに。
歯が折れそうなほどに甘い、強烈な味わいのこのアイス。これがまた疲れた体に速攻届き、にっこりになる美味しさなのだ。
ガクブル震えながらもアイスを掬い、跳ねる魚を眺めながら一口食べる。もちこの捻挫に効くかは不明だが、私の脳にはダイレクトに届く。
あぁ寒い。でも美味しい。寒美味しい。鯉も跳ねてる。
一個で良かったねと少し後悔しながら、カバンのお酒を再確認する。さぁ鳳凰最後のドミトリー飲みは、とことんへべれけになろうじゃない。
電灯を感じさせる提灯が灯る、ドミトリーの渡り廊下。深夜にもかかわらず、部屋中から子供たちの笑い声が聞こえてくる。
そりゃこれほど楽しい夜なのだから、きっとお子様も寝付かないに決まってる。まだ寝ない~!と高らかに宣言し、ベットの上を逃げ回るのが正解だ。
私も幼少期に仲の良い親戚が遊びに来たら、根性で12時まで起きていたなぁ。今叫んでいるお子様は、当時の私と同じテンションなんだ。
鳳凰の価格バランスと昼の川下り
10月21日。
本日も近隣住宅から聴こえてくる、軽快なピアノ音で目を覚ます。同じパートを繰り返し練習しているため、スマホのアラームかと思った。
さらに気候は昨日ほどの快晴ではなく、少しだけどんより。その光景を見て、ハッと昨日干した洗濯物を確認してみる。
(;´・ω・)!!
完全に生乾きだ。
絶対電車で隣になりたくないほどの、強烈に不快な香り。やはり僅か2泊の滞在で、2週間分の洗濯物を洗うのは無理があったんだ…。
これは臭い。いわゆる生乾き菌が、目視できそうだ。
窓際に干した靴下はギリギリ乾いているものの、おパンツ系は全滅である。ラストの5日間、私は2パンツで過ごさなければならないのか。
そもそも、2週間で6パンツという計算自体がおかしい。何亀算を使っても、深刻なパンツ不足であることは明白である。
そんな生乾き事情も知らず、もちこは爆睡している。捻挫の具合を確かめたいが、まだゴマちゃんの様にもぞもぞ動く。
確かに昨日、捻挫をしているにもかかわらずバカスカ飲んでいた。捻挫の部分は目視できないが、もしかしたらデコポン位に腫れているのでは…。
仕方なく私は一人で、20時のお迎えに備えてパッキングを開始する。まず最初にめんどくさい作業をしておけば、あとは盛大に遊ぶだけだ。
そして、実は本日。最高にテンションの上がるイベントが、私たちを待っている。
それは、人生初の寝台列車。
まずこの鳳凰から車で約90分かけて、出発駅の懐化に向かう。そしてそこから紹興に向けて、約14時間の深夜特急に揺られるのだ。
中国の広大な深夜の大地を眺めながら、約半日も揺られ続ける。しかも夢にまで見た、あの深夜特急で。
何と高まるのだろう。あの深夜特急だ…。
子供の頃に何度も読み返した、沢木耕太郎先生の「深夜特急」。その中にも登場する、あの最高の乗り物に乗れるのだ。
想像するだけでよだれが溢れる、特大アゲアゲイベント。それをあと14時間後に、心行くまで満喫できるという事実。
これはアガる。猛烈に高まってしまう。
実は気持ちはバイバイ鳳凰…。ではなく、まだかな?紹興!。お別れで寂しい気分はあまりなく、気分は2:8で寝台列車に傾いている。
ごめんね鳳凰。寂しさよりワクワクが勝っちゃって。
そんなワクワクを鳳凰に悟られぬよう、生乾きの洗濯物をリュックに詰める。そして2晩お世話になった部屋の写真を、記念にパシャリ。
はっと気づいて布団も綺麗に整え、その下から探していた眼鏡も発見する。危うくメガネメガネ…と、お決まりのボケをかますところだった。
それを誰かが笑ってくれれば良いが、恐らくそのボケはこの中国では通じない。ガチで眼鏡を探しているだけの人になってしまう。
部屋にお別れを告げ、ドミトリーの受付で荷物を預ける。そして夜まで預かって欲しいんだけどと店主にお願いすると、快く承諾してくれる。
さらに店主に手招きされ、行ってみると何やら一枚の券を見せてくれる。それはどうやら、昨晩も経験した川下りのチケットのようだ。
どうやらこの鳳凰では、夜だけでなく昼間の川下りも人気らしい。そしてそのチケットがあるから、良かったら買わない?とのお誘いだった。
ほうほう、このドミトリーでも買えたんだ。それなら昨晩のチケットも、こちらで購入させて頂けば良かった。
もちろんこちらの店主には、色々とお世話になっている。さらに決して押しつけがましくない雰囲気で、全然買ってもOKだ。
しかし昨晩も乗ったこともあり、少しでも節約したいのは事実。そのためもちこも少し悩み、店主もその雰囲気に気が付いているご様子だ。
すると店主は意外にも、粘り強くチケットの購入を薦めてくる。さらに昼の川下りの素晴らしさを、巧みな表現力で説明してくれるのだ。
昼間だからこそ見える、煌びやかに反射する水面の美しさ。その光景は時に夜景よりも美しく、大変お勧めであるということ。
そして船は、観光客が足を運べない秘密の場所まで進んでくれること。さらには価格は夜の半額であり、大変リーズナブルであるという点を猛プッシュしてくる。
おお、結構ぐいぐい来るな。保険のおばちゃんみたいだ。
昨晩の美しさを思い出し、同時に彼女の熱意に押されてしまう。そして財布から80元を取り出し、昼間の川下りチケットを購入する。
※1人40元(約680円)
すると店長はすごく嬉しそうに、何度もお礼を伝えてくれた。いやいやこちらこそ、知らなかったら絶対逃してしまう魅惑のイベントだもの。
そして他にも受付で待っていた観光客たちと一緒に、川下りへと出発する。するとどうやら店主が乗り場まで案内してくれるらしく、道中は楽しい話を聞かせてくれた。
この鳳凰の街で生きる、彼女や子供達の日々の生活。自分たちがどうやってお金を稼ぎ、生計を立てているのかなど。
普段は全く聞けない話だから、無茶苦茶に興味深い。想像できない出来事も、彼女たちの回りでは頻繁に起きているようだ。
その話に一切見栄はなく、彼女たちの等身大の生活を教えてくれる。ただ私は中国語が聞き取れないため、あとからトボトボ追いかけるだけだった。
もちこが笑っているのを、羨ましそうに眺めるだけ。帰ったらユーキャンで中国語勉強しよう。本当に。
店長の話をもちこに訳して貰いながら、同時に街の朝を散策する。するとこの街の人々の生活が、より明確に理解できる気がした。
超観光地としての絶大な人気と、その中に根付く彼女たちのリアルな生活。この地を訪れる観光客にあまり見せないその姿は、本当に逞しい。
子供も大人もお爺ちゃんもおばあちゃんも、みんな現役バリバリで働いている。定年退職なんて言葉は、この鳳凰にはないのかも。
勿論この街も、最初から有名なわけではない。ここ数十年で爆発的な人気を博し、中国一美しいと呼ばれるまでに成長している。
決して農耕や商売がし易い立地ではなく、厳しい時代もあったのだろう。ただそれでもなお、この街の人々は快活で朗らかだった。
しかしふと、先ほどの出来事が気になってしまう。店主はなぜ、あれほどチケットの購入を勧めてくれたんだろう。
聞きづらそうなもちこに頼み、そんな質問を投げかけてみる。本当に失礼な質問だとは承知だったが、どうしてもその真実を聞いておきたい。
すると店主は意外にも、自分からサクッと教えてくれる。あのチケットを売ったら、自分にもマージンが入るのだと。
だから貴方たちにも、良かったら買って欲しかったのだと。でも川下り自体は、本当にお勧めなんだからね!と。
あぁ、そうだったんだ。うんうん教えてくれてありがとうね。
そして彼女はさらに、追加で教えてくれる。そのマージンが、実は5元だということを。
え!?5元 ( ゚Д゚)!?
もちこに訳して貰った途端、少し声に出てしまった。本当に失礼でごめん。
つまり女性店主が受け取るマージンは、100円にも満たない金額だった。その報酬額は、貴方の素晴らしいサービスに妥当なんだろうか。
これほど懇意に色々と手伝ってくれ、その報酬は見合っているのか。考えれば考えるほど、この国の価格バランスに翻弄される。
今彼女は、私たちを含めて5人の観光客を、船着き場まで見送ってくれている。つまり彼女が手にできる報酬は、25元(約425円)に違いない。
しかし昨晩川沿いのバーで飲んだお酒は、一杯約80元(約1.360円)。その大きな価格差は、果たして正当なバランスなのだろうか。
もちろんお酒の価格も、超観光地としては妥当な金額だとは思う。それは川沿いにBARを建設した費用等を含めれば、決して暴利な金額ではないはずだ。
しかしそれでもなお、彼女の今回の報酬と思わず比較してしまう。いらぬお世話だとは知りつつも、彼女のサービスに正当な価格だとは考えづらい。
5元…。この数字は、今後5元の商品を見かける度に思い出す気がする。
ただ彼女の楽しそうな接客を見ていると、それも一つの側面なのかと思ってしまう。もしかして彼女たちには、莫大なお金が欲しいという願望自体がないのかもしれない。
なぜならドミトリーで垣間見た彼女と家族たちは、既に十分楽しそうだった。勿論お金があるに越したことはないが、この鳳凰で大金持ちになる必要もないのかもしれない。
お金の価値観を、心の中ですら押し付けるべきではない。そう痛感する。
食べられるだけのお金があれば、十分だ。そんな意思は、彼女のドミトリーの宿泊価格(約一泊2500円)に現れているのではないだろうか。
彼女の話に耳を傾けていると、船乗り場に到着する。それは夜のコースとは全く違う、いまだ足を踏み入れていない場所だ。
そこには沢山の観光客が集まり、既に川下りを楽しんでいる。思ったよりも人が多く、昼の川下りも人気なのか!と心が躍りだす。
水流も夜のそれとは比べ物にならず、ちょっとワイルドなタイプの川下りなのかな?川の水も緑で綺麗だし、水中からどでかい生物も出てきそうだ。
出てきたら出てきたで困るけど、是非出てきて欲しい。ホウオウとか、そういう幻のポケモンみたいな方。
そしてもちこが自身の捻挫を忘れ、船に飛び乗ろうとする。同時に盛大にバランスを崩し、激痛と共に悶絶する。
慌てて引き起こすものの、どうやらまだまだ足は完治していないようだ。それなのに思わず飛び込んでしまう程、確かにこの川下りは魅力的だ。
しかしこれは、お土産屋にでご老人用の杖を買っておいたほうがいいかな。ここは見栄えは気にしてはいけないよね。
杖買うからね!
そうもちこに宣告すると、絶対嫌だ!と反論してくる。やはり杖というビジュアルが気に入らず、ケガ人扱いされたくないらしい。
杖ってあれでしょ、魔法使いみたいなやつでしょ?そう言うもちこには、どうやら変な先入観があるらしい。
ただ実際は楽しい旅もまだまだ続き、捻挫を早く治しておきたい。ここは見た目を気にせず、三本足でがしがし歩けばいいのに。
しかしもちこはなかなか首を縦に振らず、説得まで10分近くかかってしまう。イヤイヤ期の子をなだめる父親とは、恐らくこんな気持ちなんだ。
全然いうこと聞かない。でも私が子供の頃に眼鏡が必要になった時も、確かにめっちゃ嫌だったもの。
船上でそんなやり取りをしていると、気付けば船は観光客で一杯に。そして船上の船乗りさんがGOサインを出し、いざ出発進行だ。
川は見事に緑色に染まり、水草が目一杯に繁茂している。水面を眺めていると、なんだかマナティーと目が合いそうだ。
さらにこの川底に本物の鳳凰が息づいていても、きっと誰も気が付かないなぁ。そう思ってしまう程、川の水は深く緑色に染まっていた。
ざっぱぁ!!と飛び出てこないかなぁ…。今ならカメラで激写するのになぁ。
そしてここから再度、私たちは無言になる。もう私の稚拙な表現など、一切役に立たない時間の始まりだ。
さらにきっと、言葉遣いが劇的に幼稚になる。何卒お許しを頂戴したい。
あぁ…。
石橋くぐっちゃうのかなぁ…。
すごい…。石橋の裏にハトとかいる…。
めっちゃ鳴いてる…。
あれ…。
前の船が、なんか近づいてきて…。
…あ、危なっ!!
ちょ、ちょっとおじちゃん!!後ろ見てなかったでしょ!
優雅だなぁ…。
このまま5時間くらい、乗せてくれないかなぁ…。
すごい人だなぁ…。
救命道具って、昼は着ないんだなぁ…。
でも後ろの船頭さんだけ、落ちても浮かびそうなダウン着てるなぁ…。
ずるいなぁ…。
…あれ?
なんかもう、みんな川岸に向かって…。
あ、あの…。
あと5時間ほど、乗ってる予定なんだけど…。
終わってしまった。
楽しい時間とは、なぜこれほど早く過ぎ去るのか。この鳳凰川下りには、勝手に時計を進める妖怪でもいるのか。
いやぁ、しかし楽しかった。夜とはまた違った風景と風で、心をバスクリンで洗浄された気分だ。
夜の下りも良いけれど、一度は乗りなよ昼川下り。
語呂は全然良くないけど、一句歌うとしたらそんな感じ。
そして辿り着いたのは、ドミトリーとは対岸のエリア。確かこちら側は、美味しいご飯屋が沢山あったような気がする。
そういえば朝ご飯も食べておらず、これはナイスなタイミング。ここは鳳凰最後のお昼飯でも散策しようかな。
物陰からにゃんこに睨まれ、足元でわんこにご飯をねだられ。この鳳凰の街は、本当に動物たちが沢山いる。
20mくらいはチョコチョコついてくるので、ちょっとしたRPGの勇者気分。タイミングがよければ、ブレーメンの音楽隊も可能である。
さらに彼らはもしかして誰かのペットではなく、住民と共存しているのかもしれない。首輪をしている動物も少なく、彼ら自身の野生の世界がありそうだ。
持ち帰りたい程の絶品牛肉麺
そんな動物たちに囲まれながら、昨日見つけたご飯屋を目指す。するとやはりもちこの歩き方がおかしく、明らかにご老人の移動速度だ。
ひょこひょこ…。ひょこひょこ…。
何だか右足をかばい過ぎて、左足も痛そうだ。これはご飯を食べたらすぐに、杖の散策に向かうべきだろう。
そして何とか辿り着く、本日のお昼ご飯。それは昨晩大変混雑していた、牛肉麺のお店である。
ここは周囲の店より明らかに混雑しており、そしてかなりのお手軽価格。この超観光地価格のリハビリには、まさに最適なお店である。
香りも良し!値段も良し!そして味も良し!かどうか、これから判断しよう。
店内には観光客と現地の人が混ざり、皆が美味しそうに食事をしている。どうやらお味はかなり激旨らしく、どんどん列も長くなっていく。
私たちも席に通され、お勧めらしい牛肉麺をオーダーする。ちなみにここは冒険するメニューが少なく、全てが牛肉麺で統一されている。
新宿の人気刀削麺店だったら、820円なのに。12元(約204円)で食べられるとは、もう最高にハッピーだ。
何だか、麺久しぶりな気がするなぁ。中国の麺は独特の食感だから、凄く好みだなぁ。
そんなことを話していると、もちこの表情がパッと明るくなる。う、うおぉ!と叫びだし、思わず何事か!!と尋ねる。
どうやら、AAAのNISSYのコンサートが当たったらしい。それもなかなか当たらない、プレミアムなシートのチケットだ。
…にっしー( ゚Д゚)
川下りも最高だったし、チケットも当たったなぁ!今日は最高の一日だなぁ♪
そう言いながら、もちこは大変にっこにこ。私もいいことは続くねぇ!と、なかなかに嬉しい限りだ。
しかし、ふと思う。そういえば自分は、日本に住んでいるのだったと。
あと4日後には日本に戻り、そしてお仕事の日々が待っている。仕事は大好きだが、気軽に来れないこの場所とはお別れだ。
まさかNISSYのチケット当選で、現実を思い出すとは思わなかった。そしてこんな気持ちも、帰国したらすぐに忘れてしまうのかなぁ。
少しセンチメンタルな気分になり、寂しさも込みあげてくる。しかしそんな気持ちも、注文したブツで一気に吹き飛ばされてしまった。
漬け玉子&啤酒。
本当に美味しい。中国ばんざい!煮卵ばんざい!
疲れた時や凹んだ時は、この二つを食べたら治るね。大抵のお悩みは、意外とそんなに問題じゃないよね。
そんな悟りの境地に到達できる、この最強タッグ。やはり中国の味付けは、私の舌と大変仲良しらしい。
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