中国旅行記29 優しい上海上流人達と酔いの止まらぬ貴州茅台酒
何を話せば…。
思わぬお誘いを頂戴する、上海・上流階級世界。毛玉だらけのニットでお邪魔すると、そこはまるで映画のワンシーンだった。
マフィアが会合で使いそうな円卓に響く、聞き取れない中国語。想像以上の疎外感で、私は何をすれば良いんだろ。
リッチ上海に垣間見る異国の文化
珍しそうに写真を撮る私を、さらに珍しそうに眺めるホテルオーナー達。孫を愛でるような自由に撮りなさい…的な眼差しが、逆にキツイ。
ただ私がいつまでも写真を撮っていたら、皆様にもご迷惑をかけてしまう。そう思って席に付こうと考えるが、まず最初の関門に直面する。
上座どっちだ。
普段はあまり使わぬ、円卓テーブルでの会合。さらにここ上海では、着席にはどのようなルールがあるんだろ。
日本式でOKなら入り口に近い席が、若輩者のMYポジション。ただこの上海でも、果たして同じルールで攻めちゃって良いんだろうか。
もし夜景が見える窓に向いた場所が上座!とか、そんなレアな現地ルールがあったらどうしよう。そもそも入り口に近い席ったって、ここ入り口2個あるぞ…。
ただ考えようにも調べようにも、時間もWi-Fiもない。ここはとりあえず、あの作戦で行くしかない。
壁を見る。
きっと誰かが動くだろう。そう考えて壁に貼られた写真を眺める。そうすればきっと、誰かが自発的に座り始めるだろうと思いながら。
本来は勿論NGな、こちらの作戦。もし振り返って全員座っていたら、それこそ最悪だ。
もしそうなればお偉方を待たせて、一人ブラブラしていることになる。裸の大将ですら、もう少し礼節持っている。
ただここは、良い感じの出方を伺おう。この夜のルールが全然分からないため、とりあえずは手探りで進んでいこう。
そう考えながら写真を見ていると、ふと背後から話しかけられる。ソレ・ムカシノ・シャシン・ヨと。
( ゚Д゚)?
ソレムカシノシャシンヨ…?
一瞬異国の言語だと思ったが、間違いなく私に話しかけている。そして間違いなく、これは片言の日本語だ。
日本語!?誰か日本語使えるの!?
驚いて振り返ると、そこにはエリアマネージャーの奥様が。台湾人である彼女は、どうやら2年ほど日本にいらっしゃったらしい。
そしてペラペラではないものの、英語交じりで日本語を使いこなされている。その発音は非常に綺麗で、流石は上流階級と言ったところだ。
あぁこれが、ムカシノシャシンか!なるほど、確かに趣がすごい。
どうやらこれはかなり昔に撮影された、ここ上海の写真らしい。西洋風な建築物に、上海租界(外国人居留地)の雰囲気がすさまじい。
伺うとここの場所も、なにやら上海で一番古いホテルとのこと。浦江飯店と呼ばれる、1846年に建築された名店らしい。
ほうほう、すごくお勉強になる。中国の歴史は存じ上げないけれど、この機会にちょっと勉強してみようかな。
しかし約180年前の建築が、これほど美しく機能性を残し現存しているとは…。なんという物持ちの良さ、月に3回車をぶつけた友人に教えてあげたい。
意外にも理解できる話を沢山教えていただき、なんだか楽しくなってきた。ちょくちょく日本語が伝わらないが、私の日本語がおかしい可能性も激高だ。
そしてふと後ろを振り返ると、皆が良い感じに着席されている。私ももちこに手招きされ、入り口に一番近い席に腰を下ろす。
やっぱりここが下座だったんだ。良かった良かった。
酔いの止まらぬ貴州茅台酒
そして席に着くと、一人の女性がトコトコ入室してくる。どうやら彼女はこの部屋専属のウェイトレスさんらしく、入ってくるなり突如叫ぶ。
なに飲みますかぁー!!
!!!((( ゚Д゚)))!!!
でかい。凄まじくお声がでかい。そして同時に、滅茶苦茶に明るい。
肉食動物の咆哮を彷彿とさせる、その声量。部屋の静けさとのギャップから、漫画的に席から落ちそうになる。
どうやら彼女は、ホテルオーナー様とは古くからのご友人のご様子。そしていつもの行っときます?と、心地良い笑顔で彼に尋ねている。
そしてオーナーも大変嬉しそうに、そうだねぇ的に頷く。するとわっかりましたぁ♪といった感じに、彼女は駆け足で部屋から退出していった。
なんだろ、いつものって?やっぱりボトルキープ的に、高級酒でも常備されてるのかな?
飲みたい。いつもの飲んでみたい。
率直にその気持ちを中国語に訳してもらうと、オーナーは勿論だよ!と笑顔になる。さらにこの方にもグラスを!と、先ほどの女性にお願いしてくれる。
そしてそのグラスと共に到着する、一本のお酒。それは金色の側面のケースに入れられた、香港映画に出てきそうなビジュアルだ。
貴州茅台酒。
白酒の一種である、高粱を原料とするこちらの蒸留酒。1951年には国酒にも認定されたらしい、毛沢東や周恩来が接待の場で用いたお酒だ。
アルコール53度と、一気に飲めばまともに歩けなくなる超度数。ちなみにお値段もかなりやんちゃらしく、野暮すぎて聞けないレベルらしい。
色々と存じ上げないことが多すぎて、思わずへぇ…( ゚Д゚) と眺めてしまう。ただ値段をコッソリ教えてもらったもちこは、そ、それ置いて!と結構焦ってる。
どうやら結構えげつないお値段らしく、一杯だけね!と慌てだす。ただ隣の奥様は、気にせず飲んでね!と言ってくれてるんだけど。
ここで遠慮しすぎても、きっと雰囲気壊しちゃうよね。ここは一つ遠慮せず、バカスカ飲んじゃおうかな。
ちっこい。
渡された専用グラスは、まるでレゴ。本場のお酒って、ちょびちょび飲むのかな。
ちなみにこの時点の私は、53度だとは気づいていない。見た目的に日本酒くらい?と、その度数を見誤っている。
そして皆が高らかにグラスを挙げ、干杯!(ガンペイ)と叫ぶ。日本語の乾杯と響きが似ているなぁと思いながら、一気に飲み干す。
(**´Д`**) カハッ!!
むっちゃキツイ。飲んだ瞬間、脳と画面がクラリと揺れる。
あ゛あ゛…。これ、あかん濃度だ。しかも結構な空腹で飲んだため、胃袋全体が一気に熱くなる。
周囲を見渡すと、皆がレゴグラスをちびちび飲む。どうやら乾杯と言えど、ショットする必要は全くなかったらしい。
以前勤めていたブラック企業の習慣のおかげで、一気に酔いが回りだす。これは二日酔いになるやつだ。
フツカヨイ・NOデスヨ?
すると隣の席の奥様が、親切にも教えてくれる。どうやらこの貴州茅台酒、二日酔いしないことでも有名らしい。
だからタップリ飲みなさい!と。まだまだあるから!と、レゴグラスに次々注いでくれるのだ。
私ももちこも嬉しくなり、躊躇なくグイグイ飲む。美味しいぃ!程度しか感じないバカ舌だが、確かになんだかレベルが違うんだ。
想像のつかぬ浦江飯店の至福のご飯
そうこうしていると、料理がバシバシ運ばれてくる。次から次へと、円卓の中央に見慣れぬ食事が並べられていく。
見たこともない料理と、大きな器。空腹感もえげつないが、最初に手を出すわけにもいかない。
オーナーの出方を伺っていると、どんどん食べなさい!と促される。若いんだから!と、貴州茅台酒と共に料理がギュンギュン回ってくる。
あぁ優しい。何だかおばあちゃんちみたいだ。確かに遠慮しても仕方ないよね。
いっただきまーす!
少ない。
なにこれ。なにこの兄弟ケンカ起こす数。
こ、これ7人分だよな…。何算しても、絶対1人1個食べられないじゃん…。
ただいただきまぁす!と言った手前、流石に一個も取らないわけにはいかない。さらにお箸で半分だけ割って取るのも、絶対NGだ。
ここはもちこと合わせて一個、そして二人で半分にするのが正解かな。私の天使と悪魔も一個だけねって言ってるし…。
そしてパカッと割って食べてると、これが当然どえらい美味しい。極薄い衣で仕上げられた、八角の香りの鰈フライだ。
淡白なお魚に薫る、香辛料の絶技。軽さを極めた衣と、パリパリの魚皮が音を鳴らす。
これはちょっと家で作れない。これはいわゆる、超絶調理法で糖質を抑える方法なのか。
レベルが高すぎて勉強にならず、ただお魚の旨味を楽しむ。これが上海最古のホテル、浦江飯店の料理人技術なのか。
感動に震えていると、時計回りでグルグル料理が送られてくる。もうどんどんいっちゃおう!
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